突然の解任劇 過半数の株は持っていたのに何故?

 

A社を経営していたワンマン社長甲はA社の株100%を持っていました。

 

甲には3人の子供、一郎、二郎、三郎がおりました。5年前、甲が亡くなった後、甲の遺言により、A社の株は一郎が60%、二郎と三郎が20%ずつ相続し、一郎がA社の代表取締役、二郎と三郎が取締役になりました。母親の相続をめぐり一郎対二郎と三郎の泥沼の争いが始まりました。

 

そして、今年の1月、二郎の要請で開かれた取締役会の席で一郎は代表取締役を解任され、Bが代表取締役に選定されたのです。取締役会は頭数による多数決ですから2対1で一郎の負けです。そこで、一郎は二郎と三郎を取締役から解任するため株主総会を開催しようとしました。株主総会は議決権がものをいますから、過半数の株を持っている一郎は一人で二郎、三郎を解任することができます。

 

ところが、株主総会の開催は思いのほか大変で時間が掛かってしまいました。株主総会は取締役会の決議により招集が決定されます。取締役会は2対1で一郎の負けですからどこまで行っても株主総会招集の決議は否決されます。「代表取締役以外の取締役によって取締役会の決議を経ることなしに招集された総会は、法律上の意義における株主総会ということができず、そこで決議がなされても株主総会の決議があったと解することはできない。」という判例があります。

 

そこで、少数株主による株主総会招集手続きをすることになりました。少数株主(総株主の議決権の100分の3以上に当たる株式を所有)が会社に対して株主総会招集請求を行ったにもかかわらず、取締役会が遅滞なく招集手続きをとらなかった場合等に、少数株主が裁判所の許可を得て株主総会を招集する手続きです。

 

一郎は裁判所の許可を得て株主総会を招集し、自分が議長となり株主総会を開催し、二郎、三郎を取締役から解任することができました。しかし、この裁判手続きには約3ヶ月かかり、その間に二郎はA社の代表取締役として取引銀行への担保の差し替え、不動産登記の変更等かなりの量の業務執行を行っていました。

 

このように、過半数の株を持っていても決して安心はできないのです。小さい会社は、相続人=株主=会社の役員、夫婦=株主=会社の役員であることが多いので、相続や離婚等に伴う争いが、即会社の経営権の争いに発展します。会社関係の裁判の多くは同族企業の内紛です。しかし、裁判になれば、会社法という建前だけがものをいいます。

 

法は知っている人の強い味方になりますが、知らない人には冷たいものです。うまく使えば争い自体を回避する手立てが隠されています。平成18年に施行された会社法では、各企業の実情に合わせて機関設計(取締役会のある会社、一人取締役の会社等)を工夫したり、種類株式を導入して議決権のない株式を作ったり、社長の株式だけ1株につき100個の議決権をもつという属人的株式を作ったりすることができるのです。

 

このようにバリエーション豊かな諸方策は、残念ながらまだまだ活用されていません。しかし、以上のような対策が打てるのは、社長が会社の株式の大半を持ち、社長の力が絶大な時だけです。

 

是非、社長が元気なうちに専門家に相談し、事業継続計画を練っておいてください。

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