《株主(株式)の整理》事業承継の前に考えてみませんか?    

 

A社では、5年前に現社長の長男が創業者である父親から相続によりA社の株式のほとんど(長男の配偶者・子供保有分を含めて約70%)を承継しました。残りは、二男や三男、その配偶者、子供、父親の兄弟姉妹が株式を所有し(計約30%)、株主はすべて身内ばかりですが合計15名存在します。長男の家族以外は会社の経営に関与しておらず、役員にも入っておりません。

 

現社長は「息子への事業承継を目前に控え、株主を整理しておきたい」という要望をもっておられます。社長を取り巻く状況は、今のところ他の株主とトラブル等はないが、株主の中には自分をあまりよく思っていない者、所在不明な者もいるという状態です。また、各々の株主に相続が発生すれば、今後株主の数もネズミ算式に増えていく、といった状態です。

 

株主の整理をする時期としては、数年前から進めている事業がようやく軌道に乗り、来年からは相当な利益が見込まれるので株式を集約するのは株価が低い今のうちだとも考えておられました。方法としては、会社か自分が株式を買い取ってもいいということでした。

 

さて、どうしたらよいでしょうか?

 

強制的に株式を買い取る方法(詳細は後述)もありますが、それは最後の手段で、株主との関係をこじらせることなく進めるのがベストです。

 

そこで、交渉する株主に応じて以下の3パターンをアドバイスさせて頂きました。

 

(1)直接の交渉が可能で、かつ、株式を手放してもいいと少なからず考えている株主への対処法

⇒この場合は、社長自らが買い取る株式譲渡(売買)が良いと思われます。売買価格は買い手と売り手とが合意した金額で結構です。A社には株式の譲渡制限に関する規定がありましたので、その承認機関である取締役会の承認が必要です。

 

(2)株式を手放すことに関してどう考えているかわからず、場合によっては態度を硬化するおそれのある株主への対処法

⇒自己株式の取得手続きが良いかと思われます。この手続きは、株主全員に対して、A社の株式を一定の金額で会社が買い取りますよという通知を出して、売りたい・手放したいと希望する株主から会社が株式を買い取る方法です。

 

ただし、この手続きにおいて注意すべき点は、会社にその株式を買い取るだけの分配可能額があるかどうかです。「分配可能額」とは、決算書上の剰余金額から自己株式の帳簿価格等を引いたものになります。従って、欠損のある会社は、自己株式を買い取ることはできません。

 

(3)株式を手放す意思のない株主、及び所在不明株主等への対処法

⇒最悪の場合は関係がこじれるかもしれませんがそれでも構わないと考えた場合は、強制的に会社が株式を買い取る方法もあります。ただ、この手続きには、株主総会の特別決議が必要ですので、総議決権の67%を確保しておくことが必要です。

 

この67%をクリアしていない場合には、上記1及び2の手続き等を経て議決権を確保した上で行う必要があります。また、上記2の手続きと同様に会社が株式を買い取る手続きですから分配可能額もないといけません。

 

具体的には、全部取得条項付株式という種類株式を活用します。全部取得条項付株式とは、株主総会の特別決議によってその種類の株式全てを会社が取得することができるという性質を有する株式です。ただ、株価が0円以下の場合を除き、相応の対価(金銭や他種類の株式等)を相手方である株主に交付する必要があります。

 

今回の場合は金銭を対価にすることで株主全員から株式を取得できます(所在不明株主に対しては対価を供託します)が、そうすると社長及びその家族の株式も取得されてしまいますので、同時に、事後株主になってもらいたい人だけを対象に募集株式発行の決議を行っておきます。

 

平成18年施行の会社法により、上記3のように強制的に株主から株式を取り上げることが可能となりました。もちろんその株主との関係もありますし、株主にとっては非情な手段のように思われますが、所在不明な株主や常に会社の方針に反対する株主が存在する場合には有効な手段であると考えます。場合によっては、そのような株主が存在するばかりに迅速な意思決定が阻害され、余計な株主管理コストがかかり、会社にとって望ましくない結果を生むことも考えられるからです。

 

この全部取得条項付種類株式は、会社法施行前に行われていた会社再建のために新たな出資者を募る場合に既存の株式を全て無償消却するという、いわゆる100%減資に代わる手法として創設されました。100%減資では株主全員の同意を要するとされていたのに対し、全部取得条項付種類株式を活用する手法では株主総会の特別決議(議決権の3分の2以上の多数)で全てを行うことができますので、これまで遅々として進まなかった会社再建・任意整理等の場面で広く活用されています。

 

A社は、資金面や議決権の面でも既に要件は確保されており、株主を整理するタイミングとしてはベストだったと思われます。

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