老後の住まいについて―その人にとっての最善を求めて―

 

「成年後見という言葉は聞いたことがない」といわれる方は少なくなりましたが、「成年後見人が具体的にどんなことをしてくれるのかはよくわからない」という言葉が聞かれます。今回は私が成年後見の業務の中でも、もっとも重要なものだと位置づけている「住まい探し」についてお話しします。

 

超高齢化社会を迎え、高齢者のための住処は多種多様、
①特別養護老人ホーム「特養」
②老人保健施設「老健」
③介護療養型医療施設
④認知症高齢者グループホーム
⑤有料老人ホーム
⑥サービス付き高齢者向け住宅
(いわゆる、「サ高住」。2011年10月に廃止された高齢者専用賃貸住宅の後継)
⑦ケアハウス(軽費老人ホーム)
⑧養護老人ホーム
⑨ショートステイ       …。

 

⑤の有料老人ホームの中にも介護付き、住宅型、健康型と3種類あります。同じ種類の施設であっても、経営者のポリシーによって、施設長の運営方針によって、スタッフのスキルによって、内容や質は随分異なります。後見業務を始めたころ、正直各々の違いがよくわかりませんでした。14年たって、30以上の施設をじっくり観察してでた結論は、お金を出せばいいというものではないし、客観的にここが一番いい施設ということはいえないということでした。

 

一番大切なのは、本人(成年被後見人等)の老いの状況、つまり、判断能力や身体能力の衰えの程度により、或いは衰えの原因(例えばアルツハイマー型認知症、パーキンソン病等)により、その人に最もふさわしい住処を選ぶ必要があるということです。

 

■春子さんの場合■
5年前、春子さんとお会いした時は⑧の養護老人ホームに入っておられました。当時、帰宅願望が強かった春子さんは一日何度もゴミ袋にたんすの中の衣類を全て入れ出て行こうとされていました。原則的に入所者は出入り自由の施設でしたから、春子さんは事務所の方の注意をすり抜け外出し警察に保護されるということが増えてきました。交通事故の危険もあるので、急きょ空きのあったAグループホームへ転居しました。

 

グループホームは少人数で共同生活を行う施設で、スタッフの目が行き届き、声かけも頻繁になされます。春子さんは毎朝お散歩に出かけ、洗濯物をたたみ、配膳やモップがけを手伝い、様々なレクリエーションに参加することにより、帰宅願望が以前の10分の1に減少しました。ずっとプレス加工の仕事をしてきた春子さんにはやるべき仕事があることはよかったのかもしれません。

 

春子さんにはグループホームが一番ふさわしいと思いましたが、Aグループホームは費用面で問題がありました。ようやく、社会福祉法人の経営する月5万円費用が安いBグループホームを探しあて、一年順番待ちをして入所することができました。Bグループホームはスタッフにゆとりが感じられる温かい施設で、春子さんの認知症が進んだせいもありますが、今では帰宅願望は全くなくなりました。ただ、終末期までの対応は難しい施設なので特養の申込みもしています。

 

■夏子さんの場合■
多系統萎縮症の夏子さんは自宅での一人暮らしが難しくなったので、有料老人ホーム探しをしました。社交ダンス場やプールのある豪華な施設は、ほとんど寝たきり状態の夏子さんには必要ありません。リハビリが充実し、デイサービスも行っている施設を選びました。外出ができない夏子さんも、デイサービスでは在宅の方とお話しができ外の世界とつながりが持てます。

 

あの状態でどのようにしてマシンを使った筋トレができるのだろうと不思議に思いましたが、理学療法士の適切な介助と声かけで、ゆっくりゆっくり器械と向き合いリハビリも頑張っています。医師には筋力低下の進行が早い病気であると聞いていましたが、入所して3年、病気の進行は思ったよりゆっくりです。

 

■秋子さんの場合■
在宅でアルツハイマー型認知症の秋子さん、一生懸命お世話されてきた娘さんから「もう限界」とSOSが出ました。デイサービスとショートステイを組み合わせて少し様子をみることにしました。
百人百様、成年後見人は本人の老いの状況と賄える費用を念頭に本人にとって最善の施設探しを心がけます。色々な情報はいただいても、自分の目で見て、施設長や相談員とお話をし、できれば体験入所をさせていただいて施設を決定します。食堂でお食事をさせていただくと、入所されている方の表情や雰囲気が分かるので私はよく利用しています。そして、入所された後も、月に1度は訪問し、施設での生活状況のチェックをし、施設に対し改善して欲しい点を本人に代わってお願いしていきます。
とはいえ、地域や費用との兼ね合いで選択肢が限られる場合が多く、この方にとってここが最善なのか、自分の考えを押し付けていないか頭を悩ませている毎日です。

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