認知症への備えは『家族信託』vs『成年後見制度』?

私の答えは、「本人(判断の能力の不十分な方)を取り巻く、ご家族や支援者の実情に合わせて選択を!」です。
 

法律の建前から考えれば、「意思能力を欠く人の法律行為は無効」となりますので、平成30年7月現在数百万人の判断能力が不十分な方の多くには成年後見人という支援者が必要だということになります。しかし、実際には21万人にしか成年後見制度は利用されていません。もちろん、これは余りにも少なすぎます。多くの声を上げることができず、権利が守られていない人が存在している現実があります。ならば数百万人のすべての方に成年後見制度の利用が必要かというと、私はそうでもないのではないかと思っています。家族によって十分な支援が受けられ、家族間に対立もなく、家族の健康状態や年齢などに問題がないなど、すぐに成年後見制度の利用をしなくてもいい場合があると思います。
 

ところが、社会の仕組みは法律で成り立っていますから、意思能力のない人の定期預金を解約する場合や、不動産を売却する場合には、成年後見人の選任をするように銀行や司法書士から求められます。日本の成年後見制度は、ある一つのことだけのために利用するということはできません。一旦利用が始まると、ご本人の能力が回復するか亡くなられるまで継続します。この点が、成年後見制度の利用を躊躇させる一つの原因になっています(韓国では特定後見人と言って、一時的支援や遺産分割協議というように特定の事務の支援だけのために選任される後見人がいます。)。
 

そこで、最近新聞紙上に登場してきたのが、「家族信託の勧め」です。私は家族信託には未だに消極的です。①日本での取り組みの歴史は浅く、監督機能が不十分等功罪見極めが難しいことと、②余りの長期の信託は、社会の変化が激しく正直5年先のことも分からない時代にあって、30年、50年先のことを一人の人間が自分の財産のこととはいえ死後まで縛ってしまっていいのかどうか疑問に思うからです。
しかし、上記で述べたように認知症の人を特定の目的だけ特定の期間だけ支援するという成年後見制度では実現できないことを実現するためや、後継ぎ遺贈(次の次の相続人まで決めること)を実現させるための家族信託は、現状では信託を利用しなければ実現できないことですので信託をご提案することもあります。
 

次の例で考えてみましょう。
「平成25年、冬雄さん80歳、人工透析を受けています。頭はしっかりしています。資産は自宅と預金2000万円。妻春子さん78歳と大阪の自宅で二人暮らし。春子さんは軽度の認知症。春子さん名義の財産はありません。子供は東京で小学校の教師をしている親思いの光子さん一人だけです。冬雄さんは春子さんを自宅で最後まで介護する自信はありませんが、春子さんには若いころから面倒をかけっぱなしだったので、介護の行き届いたA有料老人ホーム(入居金500万円、施設費月額20万円)へ入居させたいと思っています。平成30年、冬雄さんは突然倒れ意識混濁状態に陥りました。春子さんも徘徊が始まり、日常生活の介助も必要になりました。そこで、光子さんは冬雄さんの入院費用と春子さんの入居金、施設費の支払いのため、冬雄さんの定期預金を解約しようとしました。ところが、銀行から、「ご本人か成年後見人しか預金の解約はできません」と言われました。光子さんは困って冬雄さんの自宅を売却しようとしました。すると、司法書士から、「ご本人の売却意思が確認できないと売却できません。判断能力がない場合は成年後見人を選任し、家庭裁判所で居住用不動産の売却許可を取らなければ売却できません。」と言われました。」
もし、冬雄さんの判断能力がしっかりしているうちに、冬雄さんが光子さんを受託者とし、冬雄さんと春子さんを受益者とする信託契約を結び、冬雄さんの預金と不動産を光子さん名義(信託を原因として移転)にしておけば、冬雄さんの判断能力がなくなっても、預金の解約や不動産の売却は光子さんの判断でいつでもできます(あくまでも、光子さんが信頼のおける人であることが前提で、光子さんは信託目的の範囲内で冬雄さんの財産の管理、処分ができます。)。任意後見制度の利用でも同様のことは実現できると考えますが、春子さんのために冬雄さんの財産の多くを使うことに任意後見監督人は躊躇するかもしれません。そのような場合は、信託を使った方が確実に冬雄さんの意思を実現でき、手間も少ないといえます。
 

ところで、信託と成年後見制度は決して対立するものではありません。むしろ、両方のいい面を取り入れて将来の設計をすべきではないかと考えています。次回は、信託と任意後見制度両方を利用する方法についてご説明したいと思います。

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